食餌組成(栄養条件)の変化に伴う脳内神経伝達物質及び行動への影響を調べ、相互の関係を明らかにすることを目的とした。脳内での情報を伝達するうえで重要な役割を演じている神経伝達物質は、アミノ酸そのもの、アミノ酸の修飾、アミノ酸からペプチドの合成などにより生理活性物質となるので、まず初めに食餌蛋白質と脳内神経伝達物質との関係を調べた。 1 食餌蛋白質として分離大豆蛋白質を用い、その制限アミノ酸であるメチオニン・スレオニンを補足した場合の栄養効果及び脳内物質との相関を調べた。対照群と比較してアミノ酸を補足した場合、一般の栄養効果(体重変化など)は改善されるが、脳内各部位でのトリプトファン・セロトニン・5ーハイドロキシ酢酸は著減した。その変動については、血液・脳関門を介しての中性アミノ酸の血中から脳への取り込み機構で証明することができた。即ち、脳内へのアミノ酸の取り込みには、主に4つの系路があり、また同一系路を介して取り込まれるアミノ酸はお互いに拮抗するので、個々のアミノ酸の相対的な割合が強く影響することになる。 2 脳機能の一つとして学習行動を取り上げ(オペラント型明度弁別学習試験)、脳内神経伝達物質の変化との相関を調べた。(1)トウモロコシ食にトリプトファンを補足したとき栄養価は改善され脳内セロトニン量も増加する。また学習行動にも有意な改善効果が観察された。(2)分離大豆蛋白食にメチオニン・スレオニンを添加した時、栄養価は改善されるが脳内セロトニン量は減少する。その時、学習効果は改善される。これまでセロトニン作動性ニュ-ロンの活性化と学習(記憶)とは正の相関のあることが知られていたが、今回の結果はどちからというと栄養価に依存しているように思われた。このことは、低蛋白質栄養を考える際の基礎的問題を含んでいるため、更に詳細に研究する必要がある。
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