これまでの研究で不完全酵母Candida tropicalisのペルオキシソーム系遺伝子POX2(アルシCoA酸化酵素のサブユニットPXP-2の遺伝子)およびPOX4(同じくPXP-4の遺伝子)を類縁酵母Candida maltosaに導入すれば、これらの遺伝子が正しく発現し、外から加えたプロテアーゼに対する抵抗性でみるかぎり、正しく宿主のペルオキシソーム内部へ輸送されていることが示された。そこで、POX4をPXP-4のN末端側1/3(ペプチドN)とC末端側2/3(ペプチドC)をコードする部分とに切断し、それぞれ宿主の中で発現できるような短縮型遺伝子を作製して宿主細胞を形質転換した。その結果ペプチドNは僅にしか輸送されなかったがペプチドCはPXP-4と同程度多量に輸送された。これはPXP-4の主要な局在化信号が分子の中央からC末端の部分に存在し、N末端側部分にも微弱ながら局在化信号の機能を果し得る構造が存在していることを示すものである。 PXP-4のC末端側にある主要な局在化信号を更に明らかにするために、ペプチドCのさまざまな部分を欠失させた4種類のポリペプチドに対応する遺伝子を作製して同様な実験を行った。その結果最もC末端に対応するポリペプチドは全く輸送されず、また残りの3種類のいずれも僅かにしか輸送されず、ペプチドCと同程度の局在化能力をもつものは存在しなかった。これは主要な局在化信号がPXP-4分子の中央部にあり、しかも分散した複数の部分から構成されるか、または特別な立体構造をとることが必要であることを示すものである。ペプチドCの中央部を欠くポリペプチドを含むペルオキシソームでは宿主のアシルCoA酸化酵素群の輸送が著しく阻害され、他方カタラーゼの輸送は殆ど影響を受けていなかった。これはペルオキシソームの表面に少なくとも2種類の局在化機構(リセプター)が存在することを示すものである。
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