本研究では、先にKluyveromyces marxianusのポリガラクチュロナ-ゼ(PG)遺伝子の発現を指標にして、異種遺伝子産物を高生産する酵母(S.cerevisiae SSM5ー2)を育成した。SSM5ー2株は、異種遺伝子が発現すると生育が抑制されることを見出した。本年度は、この生育抑制に検討を加え、次の結果を得た。 (1)SSM5ー2株は30℃で培養すると正常な形態を示したが、37℃では細胞は異常増殖し、母細胞から出芽した細胞は分離せず連なった形で伸長した。また、娘細胞には核が形成されないことから、SSM5ー2株はcdc(cell division cycle)変異株で、37℃で誘発される生育抑制はG2arrestであると考察した。 (2)K.marxianus由来のDNA断片(PG遺伝子の上流を含む2KbのDNA断片で、この部分にはPGの構造遺伝子は含まれていない)を挿入したプラスミド(YPP4ー90)を作製し、これで形質転換したSSM5ー2株は、30℃で培養してもG2arrestを誘発することを見出いだした。このことから、K.marxianusの染色体由来のDNA断片中にGarrestを誘発する機能が存在すると推測した。また、その遺伝子について検討し、分子量約6000のペプチドをコ-ドしているものと推定される結果を得た。 (3)SSM5ー2株のG2arrestを解除する条件を検討し、培養液にCa^<2+>を20mM以上添加することによりG2arrestが解除されることを見いだした。 (4)以上の事実から、酵母が異種遺伝子を発現する際には多くのCa^<2+>を必要とする可能性が示唆された。Northern hybridizationで検討した結果、Ca^<2+>は転写には関係していないと言う結果を得た。このことから、Ca^<2+>は翻訳以下のレベルで関与しているものと考察した。また、細胞内のCa^<2+>濃度とG2arrestとの関係についても検討したが、Ca^<2+>の測定が困難で解明に至らなかった。
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