酵母は異種遺伝子産物を生産させる宿主として優れているが、導入された異種遺伝子の発現が不安定で、遺伝子の発現にともなって生育が抑制される場合が多い。 本研究は異種遺伝子産物を安定して生産する宿主酵母を育成する研究に関するものである。本研究では、kluyveromyce marxianus由来のポリガラクチュロナ-ゼ(PG)遺伝子の発現を指標にして、異種遺伝子を高発現する菌株の育成を行い次の結果を得た。 1.S.cerevisiae(DKDーKDーH)にK.marxianus由来のPG遺伝子を含むDNA断片を挿入したプラスミドを導入すると宿主はPGを生産した。しかし、その発現は極めて不安定で、その原因の1つが宿主内でPG遺伝子に組換えが起こることにあることを明かにした。 2.人工変異によってPG遺伝子を安定に発現する菌株(SSM5ー2)を誘導した。SSM5ー2株は、一種のCDC変異株で、PG遺伝子の組換え能が劣化し、細胞内のプロテア-ゼ活性も低下していた。また、親株に比べて細胞膜のステロ-ルと不飽和脂肪酸の含量が高く、KU法でのプラスミドによる形質転換能が低下していた。 3.SSM5ー2株の形質転換法を検討し、細胞をLiClと2ーmercaptoethylamineの存在下で、40℃で処理してcompetent化することにより、親株と同様に形質転換出来ることを明らかにした。 4.SSM5ー2株がPG遺伝子を発現するとG2 arrestを誘発すること、また、これがCa^<2+>によって回復することを見出した。さらに、G2 arrestを誘発すると考えられる遺伝子をPG遺伝子の上流の見出し、その塩基配列を明らかにして分子量約6000のペプチドをコ-ドしているであろうことを明かにした。
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