研究概要 |
本研究の主要な部分は、ファイトアレキシン及びその構造関連物質の植物病原菌あるいは非病原菌による代謝様式の追究と、代謝実験に使用するための基質の調製よりなっている。 プレニル化イソフラボン(例えばluteone=5,7,2',4'-tetrahydroxy-6-prenyl-isoflavone)のカビによる代謝は、側鎖二重結合部を攻撃点とした低毒性化合物への変換であることを明らかにしてきた。代謝産物の環状エーテルや側鎖部ジオール構造より、代謝反応の第一ステップは二重結合のエポキシ化であろうと推測されていた。この反応様式は、類似構造を有する天然物(ロテノイドやクマリン類他)の生合成過程に於ても予想されていたものであったが、実験的証明即ち代謝中間体エポキシドを単離し構造を確認するには至っていなかった。今回、プレニル基のオルト位に水酸基を持たない基質を使用することによって、代謝反応の初期に反応中間体として基質のエポキシ変換物を単離し、その構造を解析することに成功した。さらに、生成したエポキシ誘導体不斉中心の立体化学を解析した。中間体は、穏やかな酸性条件下、立体保持で加水分解し反応生成物の1,2-グリコールをオスメートエステルに誘導して、円二色性スペクトルの測定を行ない観察されたコットン効果の符号より、絶対配置がSであると決定した。この立体化学解析は、先に単離していたプレニル化イソフラボンのカビによる代謝産物の絶対配置と考え併せると、代謝反応の立体化学そのものの理解を可能にするものであった。 マメ科植物のファイトアレキシンあるいはその関連化合物を、代謝実験の基質にするため大量調製を計画、ウオトリマメ(Piscidia erythrina)及び近縁のLonchocarpus guatamalensisの根皮の成分を分画し、プレニルイソフラボン、プレニルフラバノン等をそれぞれ数100mg〜数gずつ単離することができた。これらを基質とする代謝実験は次年度に実施する。
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