われわれは、大豆アレルゲンの探索中に、たまたま酸化大豆油と大豆蛋白質の反応物が、大豆アレルギー患者血清中に存在するIgE抗体と強く反応することを見出した。本年度の研究においては、この点をさらに詳細に究明するために、大豆蛋白質の代りに卵白アルブミンやβーラクトグロブリンなどの食品蛋白質を用いて実験を行ったが、大豆蛋白質の場合と同様に、酸化大豆油との反応生成物が高いアレルゲン活性を示すことを見出した。さらに、大豆油の代わりに、なたね油やピーナッツ油を用いても、食品蛋白質との反応物は高いアレルゲン活性を示したが、その値は大豆油の場合に比べてやや低かった。大豆油は他の食用油と比べて、不飽和脂肪酸の含量が高く、酸化され易い。このことは、油脂の酸化によって生じた二次生成物が蛋白質と反応してアレルゲン活性を高めている可能性を示すものと思われる。この点を確かめるために、リノール酸リノレイン酸などの不飽和脂肪酸について実験を行ってみると、二重結合の多い脂肪酸ほど蛋白質と反応した場合のアレルゲン活性の増加割合は大きかった。また、油脂の酸化生成物の一つとしてしられているマロンジアルデヒドを卵白アルブミンと反応させると、大豆アレルゲン患者血清中のIgE抗体と強く反応することが確かめられた。この場合、マロンジアルデヒドの反応により、卵白アルブミンの遊離アミノ基が減少することから、アレルゲン活性の増加は、アミノカルボニル反応によるものと思われた。 以上の知見は、大豆アレルギーの原因物質が油脂の酸化生成物と蛋白質の間の反応で生成するハプテン様物質による可能性を強く示唆するものである。現状の食品加工のさいに、大豆油は非常に広範囲に使用されていることを考えると、ここにえられた知見は、食品加工の実際面においても極めて興味深いものと思われる。
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