牛乳中のコロイド状リン酸カルシウム(CCP)は牛乳の加熱、冷却、凍結などの各種処理に伴うカゼインミセルの特性変化などに密接に係わっていると考えられているが、その存在形態と役割についてはまだよく解明されていなかった。我々は先に高速液体のクロマトラフィによるCCP架橋カゼイン会合体の分離法を確立した。本研究では、加熱によるCCPの変化並びに冷却による可溶性カゼインの遊離とCCP架橋との関係を調べた。 カゼインミセル分散液(CMD)および濃縮CMDを60〜90℃で10分間あるいは超高温加熱(135〜140℃、15〜75秒間)すると、CCP含量が増加することが確認された。カゼインミセル中のCCP架橋カゼイン会合体含量は、60〜90℃の加熱ではほとんど変化しなかったが、超高温加熱では、CMDの場合で51.9%から、46.1%へ、濃縮CMDの場合で52.3%から43.6%へ減少した。これらの結果から、超高温加熱によってCCP含量は増大するが、カゼインミセル中のCCP架橋の切断が起きるものと考えられた。 CMDカルシウムとリン酸を添加し、CCP架橋カゼイン会合体含量を49.3%から68.3%にまで増大させたミセルを調製した。このCMDを冷却したとき遊離する可溶性カゼイン量は、CCP含量の増大とともに減少した。可溶性カゼインの成分組性を高速イオン交換クロマトラフィで調べた、冷却により遊離するβ-カゼイン量を求めた。CCP含量を増大させるとCCPにより架橋されるβ-カゼインは全β-カゼインの46.2%から69.9%にまで増加し、冷却により遊離するβ-カゼインは全βーカゼインの31.8%から2.1%にまで減少した。CCP架橋が増加すると冷却により遊離するβーカゼインが減少するのは、架橋させるβ-カゼインが増加するだけでなく、β-カゼインと他のカゼイン成分との相互作用が強くなるためと考えられた。
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