研究概要 |
1.茨城県鹿島群の鹿島灘に沿った地域のクロマツ林から,前年と同じく13ヵ所の調査区を選び(南北30kmの間),7〜8月にマツカレハ卵塊を採集して卵寄生蜂の種構成や寄生率を調査した。3種の寄生蜂,キイロタマゴバチ,フタスジタマゴバチ,マツケムシクロタマゴバチによる寄生率の低さは前年と同じで,3種を合計しても20%に満たなかった。ただし,前二者の寄生率は北と南の間で若干の違いがあり,この傾向も前年の観察結果と同じであった。マツケムシクロタマゴバチの寄生率は全域を通じて極めて低かった。 2.調査区の一部で年2回発生の前提となる越冬世代の早期羽化が観察されたが,これは暖冬の影響が大きかったためと思われる。ただし,老熟幼虫期の死亡率が高く(寄生昆虫,病気などによる),羽化率は予想外に低かった。このこともあったためか,この調査区では成虫の年2回発生を観察することはできなかった。 3.寄主の年2回発生を人為的に野外に再現させ,それに対する卵寄生蜂の寄生の仕方を調べる実験は前年に引き続き試みたが,老熟幼虫の放飼数に比べて得られた卵塊数の極めて少ないことが目立った。この原因は鳥などの捕食によるものと思われるので,放飼の際,マツ1本当たりの幼虫数を少なくしてなるべく多数のマツに放飼するよう努めたが,羽化率を上げることは出来なかった。室内で飼育した幼虫の行動は緩慢になり勝ちなので,放飼後,捕食者の標的になり易いことが考えられる。幼虫の放飼の仕方にはさらに工夫が必要と思われた。なお,放飼虫から得られた卵塊数は少なくても,それに対する卵寄生蜂の活動の仕方はある程度押さえることができるので,マツカレハが生息していない時期や場所での卵寄生蜂の動きを知るための手段として寄主の放飼いは有効と考えられる。
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