研究概要 |
1.茨城県鹿島郡の鹿島灘に沿った海岸地帯のクロマツ林から選んだ調査区において,1988・1989年に引き続きマツカレハ卵に対する寄生蜂(3種)の寄生の仕方を調査した。寄主の密度はこの3年間,全般的に下降の傾向にあり,卵寄生蜂の寄生率は1989年に全体に上昇し一部の調査区で40%を越える場所も出たものの,1990年には大部分の調査区において1988年の水準に戻りつつある。1988年から翌年にかけて寄主の早期羽化が起こった地域では3種の卵寄生蜂のうちマツケムシクロタマゴバチの寄生率が高まり,その影響は1990年にまで持ち越されたが,その他の地域における本種の寄生率は過去十数年の観察結果と同様,きわめて低かった。 2.寄主卵を野外に放飼して寄主の年2回出現を人為的に再現させ,これに対する卵寄生蜂の寄生仕方を調べる実験も前の2年間に引き続いて同一実験区で行なったが,放虫数に比べ得られた卵塊数が少ないことはこれまでの結果と同じであった。卵塊の出現率(卵塊数/放虫数)を低めている主要因は鳥による捕食だと考えられるが,捕食のされ方は季節によって異なるように思われた。実験で得られた卵塊に対する寄生蜂の寄生率をみると,マツケムシクロタマゴバチの寄生率は自然條件下での寄主卵に対するよりも高まっており,明らかに放飼した寄主卵の効果があったと思われた。かつて寄主卵が1年に2回発生していた頃,高い寄生率を保っていた本種が,寄生卵の発生が年1回へと変わるに伴い急激に寄生率を低下させていった原因は,本種がこの地方ではアツカレハに特に強く依存していたためとみられたが,野外観察や放飼実験の結果から,このような推察がほぼ確からしいと結論された。なお,放飼実験に関しては放飼した虫(老熟幼虫や蛹)の生存率を高めるような方法を工夫することが今後の課題として残された。
|