秩父地方山地帯天然林を代表するイヌブナ、シオジ、ツガの3群落の更新に関する基礎的資料を得る目的で、'89年8月初旬に東京大学農学部附属秩父演習林内11林班の標高900m付近のイヌブナ、シオジ、ツガの各優占林分内にそれぞれ30×30m^2(Q1)、50×50m^2(Q2)、20×30m^2(Q3)及び28林班の標高1160mのイヌブナ優占林分内に50×50m^2(Q4)の調査区各1個を設定した。さらに、9月中旬にQ1:18個、Q2:30個、Q3:12個、Q4:30個のシードトラップを設置し、9月下旬から12月中旬にかけて6回試料の回収を行った。現在各区の試料について落下種子の選別と同定作業を実施中であり、その詳細については不明な点もあるが、イヌブナは'84年以来の豊作年にあたることが明らかになった。また、同種の種子落下数の季節変化をみると10月初旬から増加し始めて、10月下旬から11月初旬にピークがあることが明らかになった。シオジは過去の比較資料が無く、豊凶の判定は難しいが、並作程度と推定された。また、落下種子数のピークは10月中・下旬であった。ツガはいずれの月においても落下種子数は少なく、不作年にあたることが明らかになった。 イヌブナとシオジについては'89年度に計画している実生の生育と光条件および虫害に関する実験に供する種子を11月初旬に多量に採取した。これらの種子については現在異なる温度条件下(10、15、20、25℃)で発芽試験を実施中である。現在までの結果から、イヌブナはいずれの温度条件下でも80%以上、シオジは10℃では発芽がみられず、それ以外の温度条件下では30〜40%の発芽率であった。イヌブナについては5℃以下の低温下で発芽可能であることが、標高900mの地点で2月28日に既に発根している種子が観察されたことから明らかであり、今後その発芽最低温についてはも明らかにしたい。
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