本研究では、樹木の呈する樹種固有の形態、すなわち、樹形を相対成長の立場から分析して、その形成過程の生物学的説明を試みた。分析方法として、樹木の幹上の一定間隔の横断面上で、同齢の樹高と直系との間の相対成長関係を調べ検証した。すなわち、樹高xと直径yとの間にアロメトリ-式 y=αx^βを当てはめ、相対成長係数βの値に注目した。今回は、本邦の代表的な針葉樹であるスギ、トドマツおよびカラマツの3樹種を対象に分析を行った。この結果、樹種を問わず、幹上の樹高と直径との間には、幹軸に沿って異なる成長階梯を呈する二つの部分にわけられた。その第一成長階梯は、開放環境にある陽樹冠部で生じ、直径が樹高に対して等成長に近い関係を保持する階梯である。第二成長階梯は、閉鎖環境下にある枝下部で生じ、直径が樹高に対して劣成長の相対成長関係を呈する階梯である。さらに、上の相対成長関係の成立機構を同化生産物の幹への配分則とみられるプレスラ-則によって説明することができた。これらの成果を基に、樹幹の形成過程をコンピュ-タシミュレ-ションによって再現し、その実物への相似性から、幹の相対成長則がその幹形を形成する基本的規則であることが確かめられた。幹で確かめられた相対成長則は、樹冠の発達過程に対しても成立しており、樹種によって特有な相対成長係数が認められた。
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