野外での定量的な測定法が確立していない森林からの蒸散量を、雨量や流域からの流出量と同等の精度で求めるために、ヒートパルス法を用いた樹幹での樹液流動計画、森林微気象、水収支(雨量、流出量)の連続観測を桐生試験地(滋賀県大津市)で並行して行った。 1.ヒートパルス法によるアカマツ、ヒノキ林の樹液流測定 アカマツ、ヒノキ、林分中に自生した落葉樹のコシアブラの測定結果より、樹液流速の日変化、季節変化が得られた。アカマツ、ヒノキは冬期も蒸散を休止しないことがわかり、落葉樹のコシアブラとは季節変化傾向が異なった。 2.ヒートパルス法による樹液流測定値と気象条件の対比 樹冠上の気象記録を用い、ペンマン・モンティース法で蒸散量推定値を求め、アカマツとヒノキの樹液流速測定値と対比した。両者は、毎時の値、日変化、日積算値、季節変化のいずれも良好な一価関係があり、この関係は季節変化しなかった。降水で樹冠が濡れ、蒸散が停止する期間についても、両者は時間的に良く対応し、ペンマン・モンティース法に組み込まれた樹冠遮断モデルの妥当性が検証された。落葉樹のコシアブラの樹液流速に対応するペンマン・モンティース法の蒸散量推定値を求めるには、アカマツとヒノキとは異なる気孔抵抗の関数を与える必要がある。蒸散量とその季節変化の樹種による差異を、微気象学的モデルにおける気孔抵抗の違いとして定量的に比較する見通しが得られた。 3.ヒートパルス法による樹液流測定値と樹木吸水量の比較 ヒノキの立木を伐倒し、ヒートパルス法による樹液流測定値と単木吸水量の関係が求められた。 今後は、試験地での野外観測を継続するとともに、蒸散量推定の精度を高め、蒸散が森林流域の水循環に与える影響を検討する。
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