研究概要 |
1.野外調査:北海道および鳥取、山梨、愛媛、大分の各県において子実体の採集、生態調査を行い、産地を異にする子実体より新たに25株の組織分離菌糸体、9株総計109系統の単胞子分離菌糸体を得た。子実体標本は乾燥保存し形態学的観察に、また菌糸体は生物学的性質の調査に供試した。 2.子実体標本の形態学的観察:子実体の形態学的特徴に基づき、前年度7つの分布集団(I〜VII)を認めたが、これらに加えて本年度新たに3つの分布集団(VIII〜X)を認めた。うち鳥取県で見い出された分布集団IXは、その特徴から欧州に分布するArmillariella cepistipes f.pseudobulbosaと推定された。 3.生物学的性質の調査:37株について、各々単胞子分離菌糸体8〜15系統を用いて、それぞれの菌株における交配系を調査した。その結果12株では交配反応が不明瞭あるいは供試系統数の不足などの原因で交配系を決定できなかったが、残りの25株(全体の67.6%)では4極性の交配系を示し、交配反応は従来広義のナラタケにおいて報告されているものと良く一致した。子実体の形態学的特徴に基づいて区別された10の分布集団のうち、それぞれを代表する菌株において単胞子分離菌糸体の得られている分布集団II,III,V,VI,VII,Xの6つについて、菌株間で交配試験を行いそれらの和合性について検討した。その結果、VおよびVIを代表する菌株間で和合性が認められたが、それ以外では菌株間相互に和合成は認められなかった。この結果は、日本産ナラタケ(広義)には少なくとも5つの生殖的に隔離され、また形態学的にも異なる集団の存在を示すものであった。人工培地上における子実体形成について予備的試験を行った結果、分布集団IIに属する2菌株で、麦芽エキス寒天培地上での子実体原基形成が認められた。
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