刃物の切れ味が低下しないようにするために、刃物の逃げ面側にだけに非常に薄くクロムめっきすることにより、逃げ面側からの摩耗を防ぐ一方、すくい面側からの摩耗を積極的に行わしめることにより、刃先が鋭利に維持される自己研磨特性をもたせた刃物を開発することがこの研究の目的である。本粘土は1)刃物綱種などの刃物条件の影響2)切込量などの切削条件の影響を、実験室的な切削試験機により繰り返し平削りを行って、刃物の摩耗性質から詳細に調べることを当初計画した通りに実行した。まず刃物綱種の影響については、めっきをしない刃物でも、マカンバ材を削るとすくい面側から切屑で研磨されているような摩耗形態となることが、摩耗刃物を走査電顕で観察した結果、明らかになった(論文1)。この結果は逃げ面摩耗を防げば、切れ味の低下を防ぐことができるであろうという自己研磨の原理を考え出す手がかりとなったものである。またすくい面側の切屑の研磨作用を引き出すには、靭性の大きい刃物綱種の方が有利であることも分かった。これらの結果はクロムめっき刃物についても同様に当てはまり、靭性の大きい綱種の方が、すくい面が凹面状にえぐれるように摩耗して、より理想的な自己研磨特性をもっていた(未発表)。自己研磨特性をもちやすい綱種の一つとして、SKS-3が有力であることが分かった。そこで、次にクロム厚の影響については、SKS-3を用いて逃げ面側にのみクロムめっきをした刃物でスプルースを削ったところ、最適クロム厚は1〜3μmであることが分かった。このクロム厚の刃物は、めっきをしない刃物の切削長0.2〜0.3kmにおける切れ味を3〜4kmまで維持して、驚異的な結果を示した(論文2)。次に切込量の影響については、クロム厚1.2μmの刃物でスプルースを削ると、切込量が切屑の形態に大きな影響をもち、最良の自己研磨特性を導く最適切込量が存在し、50μm近辺であることが明らかになった(論文2)。
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