木工用刃物は使用するに従って、刃先が次第に丸められるように磨耗する。本研究では、このような磨耗経過をたどらないように、刃物の逃げ面だけに非常に薄くクロムをめっきすることにより、めっきをしていないすくい面から常に研磨しているように磨耗を進行させる自己研磨特性をもたせた刃物の開発を目的とした。昨年度(初年度)は実験的な切削試験により、その特性を引き出し得る刃物条件および切削条件を明らかにした。 今年度は、その結果に基づいて、実用的な試験を超仕上げ鉋盤を用いて行った。試験は、気乾状態の木材を超仕上げ鉋盤により、連続的に往復切削させながら切削を繰り返し、刃先の磨耗形態および切削面粗さを測定した。樹種は針葉樹3種類、広葉樹2種類、バイアス角は0°〜60°、切込量は40μm〜160μmについて検討したところ、クロムをめっきした刃物は自己研磨特性を示し、実用の可能性が明らかになった。その際、すくい面を凹面状に研磨するような良好な自己研磨の形を得る条件は、広葉樹より針葉樹、小さいバイアス角、比較的大きい切込量であった。比較のために試験しためっきをしていない市販の刃物は、クロムをめっきした刃物と異なり、逃げ面側に磨耗が著しく発達し、その磨耗部が切削面を押しつぶすような悪い作用をするように思われた。反面、むしろ逃げ面から刃先が研磨される効果をもつ例外的な条件の存在も明らかになった。これは、樹種がベイスギというごく限られた条件にだけ起こり、クロムをめっきした刃物の磨耗形態が理想に近い良好な自己研磨の形をしているにもかかわらず、その切削面粗さが、クロムをめっきしていない市販の刃物よりやや大きくなった。以上のように計画した通りに超仕上げ鉋盤による逃げ面クロムめっき刃物の実用試験を実施し、その刃物の実用の可能性を十分に実証し、ほぼ目的を達成できた。
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