広葉樹は、傾斜した上側に偏心生長が起こり、二次壁の内側にゼラチン層をもつ引張あて材が形成されるが、針葉樹の傾斜下側に形成される圧縮あて材とはその生理的発現機構が異なると考えられる。圧縮あて材の発現については、インドール酢酸(IAA)が強く関与していると言われているが、引張あて材については、IAAの性質からそのかかわりは考えにくい。従って、引張あて材の形成についてはIAA以外の植物ホルモンとの関連性を検討する必要がある。事実、アブシジン酸(ABA)が引張あて材の形成に密接にかかわっている可能性も示唆されている。そこで本研究では、傾斜させた広葉樹3種の傾斜下側、上側、側面の組織観察を行うとともに、IAA、ABAの絶対濃度を定量した。 本実験に用いた広葉樹はのシオジ、オオバアサグラ、ミズナラの3種で、1987年の5月にそれぞれの供試木を90〜120度に傾斜させた。そして、その1ヶ月後及び3ヶ月後に伐採し、傾斜下側、上側、その側面から光学顕微鏡観察試料、及びIAA、ABAの絶対濃度定量試料を採取した。光学顕微鏡試料はFAA固定、セロイジン包埋、ファーストグリーン-サフラニン染色を施こし観察に供した。IAA、ABA定量は、メタノール抽出後、エーテル、液体クロマトグラフで精製し、GC-MSによって同定、定量した。 傾斜後1ヶ月経過して採取し、光学顕微鏡で引張あて材の形成状態を観察したところ、シオジ、ミズナラは傾斜上側に細胞分裂の促進が明らかに認められた。また3ヶ月後の観察では、引張あて材特有の組織が形成されていた。オオバアサガラについては、多少の偏心成長が観察されたものの、他の樹種ほど顕著ではなかった。また引張あて材の特徴である二次壁内側のゼラチン層は認められない。IAA及びABAについては、まだ精製仮定にあるため各部位の濃度レベルの結果は次年度となる。
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