研究課題
本研究は、広葉樹の引張あて材の発現機構を植物生理学的な観点、特に植物ホルモンの視点から明らかにすることを目的として行った。供試木として、シオジ、オオバアサガラ、ミズナラの3樹種を用い、人為的に90°近い曲げ傾斜を与えて樹幹内各部位で引張あて材特有の組織構造を形成を肉眼的、顕微鏡的に観察すると共に、内生するインド-ル酢酸(IAA)やアブシジン酸(ABA)の植物ホルモン濃度分布を調べた。本年は、前年に引き続き各樹種の組織構造観察を行ったが、特にシオジの曲げ処理後1年経過した供試木を観察に用いてその樹幹内数箇所の傾斜上側、下側の細胞生産数を測定し、それぞれ部位の偏心性の状態を調べた。この結果、傾斜上側で細胞数が多く、下側で少ないという広葉樹の傾斜木に一般的に見られるような偏心性が観察された。また、引張あて材の組織構造的特徴であるゼラチン層の形成は認められなかったが、染色した切片の顕微鏡観察から引張あて材特有の木質化の低減か確認された。ミズナラは、偏心性においても、肉眼的な組織構造の特徴においても明瞭な引張あて材が形成されたと判断された。しかしながら、ゼラチン層の形成については、観察が終了していないこともあって確認するに至っていない。一方、各傾斜木の内生IAAとABAの同定・定量については分析が進められ、現在のところ引張あて材の形成が確認されたミズナラのIAAの結果が得られている。曲げ処理したミズナラの樹幹内には、IAAの存在が確認されたが、その濃度レベルは針葉樹に比べてかなり低い。また、傾斜木の傾斜上側、下側とその中間のIAA濃度を調べた結果、針葉樹のような一方に偏った特徴的なIAA濃度分布は認められなかった。引張あて材の形成が認められた傾斜上側では特に高いIAA濃度を示すこともなく、また全体のIAA濃度はかなり低いことからIAAの引張あて材形成への主体的なかかわりは小さいと考える。
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