広葉樹傾斜木は、針葉樹と同様あて材を形成することが多い。ところが、広葉樹は針葉樹と違って傾斜上側で偏心生長し、組織構造的にも異なった特徴の引張あて材を形成する。また、広葉樹傾斜木において顕著な偏心性や組織構造的特性を示す樹種と、そうでない樹種があるといわれている。したがって、広葉樹のあて材形成のメカニズムについてはまだ不明な点が多く、植物性理学的にもはっきりした説明がなされていないといってよい。そこで、本研究ではシオジ、オオバアサガラ、ミズナラを人為的に曲げ、一定期間経過した後にその傾斜木の幾つかの部位について偏心性や組織構造を調べて引張あて材形成の出現性を明らかにするとともに、樹幹内におけるインド-ル酢酸(IAA)やアブシジン酸(ABA)の濃度分布を測定し、引張あて材形成との関係を検討した。 (1)傾斜木の偏心性生長は、シオジ、ミズナラで見られ、傾斜上側での肥大生長は大きく、下側で小さい。オオバアサガラでははっきりした偏心生長が観察されず、傾斜木の偏心性の発現は樹種によって異なる。 (2)広葉樹のあて材特有の組織構造は、シオジ、ミズナラでは観察されたが、オオバアサガラでは認められなかった。シオジの傾斜上側では、引張あて材の特徴である細胞壁内側のゼラチン層は確認できなかった。しかし、リグニンの減少は認められた。ミズナラの傾斜上側では引張あて材特有の三日月型の淡色部分が肉眼で観察された。 (3)あて材の組織構造的特徴が観察されたミズナラについて、IAAの濃度分布を調べたが、傾斜上下での顕著な差は認められなかった。針葉樹のあて材形成の際にみられるIAAの著しい濃度分布差は広葉樹では起こらず、引張あて材形成へのIAAの役割は針葉樹に比べ小さいと考えることができる。あて材形成に対するABAの関与が予想されるが、現在検討中である。
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