現在、樹幹の遺伝子に関しては全く研究例がなく、研究の進展には草本遺伝子研究の技術移入だけでなく独自の方法が必要となる。特に次の2点は、先ず開発しなければならない項目であろう。(1)樹幹で発現している遺伝子(mRNA)の抽出方法、(2)単離した遺伝子群の中で、木をかたちづくる遺伝子の検出方法。本研究ではこの2点について検討を加えた。 (1)に関しては、特にレクチンの発現量が多い種子と樹幹(二次師部)を用いてRNAの単離条件を詳細に検討した。単離したRNAを、主として紫外線吸収スペクトルとアガロ-ス電気泳動によって分析した結果、除タンパク質・除ペクチン処理がRNA品質の向上に必要であることを見いだした。ポリ(A^+)RNAから逆転写したcDNAは最大約2.2kbの鎖長であった。 (2)に関しては、レクチン遺伝子に着目した。樹木のレクチン遺伝子は遺伝子ファミリ-を形成しており、器官特異的に発現している。このような器官特異的遺伝子ファミリ-は、進化の過程で起こった木本←→草本の変換と無関係ではない。そこで木をかたちづくる遺伝子として、エンジュ(クララ属、この属には高木、低木、草本種が混在)のレクチン遺伝子ファミリ-を研究対象とした。レクチンのアミノ酸配列をもとに合成したミックスプロ-ブによって、種子RNA中にレクチン遺伝子と思われるバンドが観察されたが、樹幹RNAでは検出できなかった。 RNAの単離に関しては条件をかなり絞ることができた。しかしレクチン遺伝子の検出に関しては当初の目的を達するに至っていない。今後残された問題点を補完しつつ、レクチン遺伝子を指標として、木をかたちづくる遺伝子の本質に近づく研究を進めたい。
|