前年度の研究により、アルコ-ル・バイサルファイト蒸解条件下でリグニン中のβ-O-4結合はキノンメチド中間体を経由して開裂され、オイゲノ-ルを生成すると推定された。 本年度はβ-O-4結合にあずかるアリ-ル基の置換様式の影響について検討した。その結果β-グアイアシルエ-テルの開裂と比べてβ-シリンギルエ-テルの開裂は著しく速やかに進行することが見出された。この事実はキノンメチド中間体の生体が律速段階でないことを示唆している。 一方、前年度に反応溶媒として5種が適当であるとしたが、これらはいずれも第一級または第二級水酸基を持つ溶媒であったので、溶媒がリグニンのα-位とエ-テル結合を形成し、これが反応に関与する可能性を否定できなかった。しかし、より多くの溶媒を用いて実験したところ、ジメチルホルムアミド(DMF)が反応に適することが今年度見出され、前記の可能性は否定された。溶媒効果の実態については依然として不明であるが、反応中間体として生成したラジカルの溶媒和による安定化に寄与している可能性を考えている。 これらの結果に基づき、アルコ-ル・バイサルファイト蒸解時のリグニン中のβ-O-4結合の開裂では、重亜硫酸アニオンからキノンメチド中間体への一電子移動によるラジカルアニオンの生成が律速となり、このラジカルアニオン中のβ-O-4結合の開裂後さらに一電子移動により安定化すると考えている。 この反応を制御する一つの手段として、溶媒の種類と濃度について検討したところ、前述のようにDMFが好溶媒であることを見出した。また溶媒濃度としては50%が最適であることを確認した。しかし、より効率的に反応を進めるには競争反応であるスルホン化を抑制する必要があることが見出され、この点は今後の課題として残されている。
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