研究概要 |
真骨魚類における胎生現象の成立機構を明かにする目的で、メバル属魚類を主なモデルとして妊娠の成立から出産に至る過程の生理機構を解明しようとした。1.妊娠の成立要件 (1)年1回産仔型のエゾメバル雌雄の生殖周期を組織学的に明かにし、これに基づいて日本産4種のメバル属魚類の生殖周期について比較した結果、北方種ほど雌雄とも配偶子形成の期間が長く、また精子の卵巣内貯留期間も長いことが示された。(2)エゾメバルの卵母細胞の生体外成熟誘起実験を行い、17α,20β-dihsydroxy-4-pregnen-3-one(17α,20β-DP)が最終成熟誘起ホルモンであることを確めた。またエゾメバルとクロソイで生殖周期に伴う血中ステロイドの変化を調べ、estradiol-17β(E_2)が卵黄形成に、17α,20β-DPが卵母細胞の最終成熟に引続いて妊娠維にも重要な役割を果している可能性を見出した。一方、多回産仔型のカサゴの年生殖周期における血中ステロイドの変化からも同様の結論を得た。(3)卵生魚のメダカとイトヨに人為的媒精を行った結果、卵巣内での受精と初期胚発生が誘起されたことから、胎生魚においては後期胚発生と出産に対する母体側の適応的刷新が、胎生成立の基本的な要件であることが示唆された。2.エゾメバルの雌特異血清蛋白(FSSP)について調べ、このうちビテロゲニン(Vg)濃度の季節的変化から、Vgは卵母細胞の卵黄形成に専ら用いられ、発生胚に対しての直接的な栄養源にはならないことが示された。また雌血中に高濃度に含まれる、Vgとは別のFSSPを見出し、その物理化学的、生理学的特性を明かにした。(2)妊娠中の発生後期胚の後腸部が顕著に肥大し、卵巣液由来の卵黄物質を取り込むこと、同時期に胚のNa,K-ATPase活性が高まることから、出生前の胎仔の腸管が栄養物質の吸収機能を有することを示した。(3)妊娠期の卵巣組織の微細構造的変化から、上記の妊娠の生理機構にかかわる形態的特徴のいくつかを見出した。
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