異種間雑種による異質4倍体魚類を起源として進化したと考えられるコイ科魚類は、同質4倍体起源のサケ科魚類に比べて複雑な遺伝子組成を持ち、種内分化が進んでいる。また、ギンブナの雌性発生のような特殊な繁殖様式を持った種もある。前年度においてフナ属3亜種の核内遺伝子としてアイソザイムによる遺伝的分化と形態的差異を明らかにし、核外遺伝子であるミトコンドリアDNAの単離法を確立した。本年度はコイのアイソザイム遺伝子の推定と、前年度に確立したアルカリ処理法によりフナ属とコイのmtDNAを単離し、遺伝的変異の定性と定量をして、コイ科魚類の遺伝子動態を、核内遺伝子と核外遺伝子を指標として、解析することを目的とした。その結果の概要を以下に示す。 1.青森県で同所的に生育していたキンブナとギンブナのmtDNAの制限酵素による切断片をアガロ-スゲル電気泳動法によって比較をした結果、9制限酵素中7制限酵素で固体による切断型の違いは認められず、変異が認められたPstIでも変異型は2型に共通して認められた。これは核内遺伝子の完全な分岐とは異なる様相を呈した。 2.コイのアイソザイム分析を9酵素についておこなったところ、19遺伝子座が推定でき、フナ属よりも多くの遺伝子重複が認められ、フナ属とは大きく異なっていた。 3.前年度開発したアルカリ処理法によってコイのmtDNAを単離し、制限酵素による切断型の分析を10酵素についておこなった結果、コイのmtDNAは4酵素で異なる切断型がみられ、明確な遺伝子的変異が認められた。また、調べたコイの30固体には切断型の組合せから、異なる4つの母系の存在が示された。また、フナの切断型とは明確に異なっていた。 以上の結果から、mtDNAがアイソザイムと質的に異なる遺伝的標識としてコイ科魚類の遺伝子動態の解析に有効であることがわかった。
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