異種間雑種による異質4倍体魚類を起源として進化したと考えられるコイ科魚類は、同質4倍体起源のサケ科魚類に比べて複雑な遺伝子組成を持ち、種内分化が進んでいる。また、ギンブナの雌性発生のような特殊な繁殖様式を持った種もある。これらの種間および種内での核内および核外遺伝子の解析をすれば、遺伝子操作による育種の大きな手がかりとなる。本研究はコイ属とフナ属を中心としたコイ科魚類の遺伝子動態を、核内遺伝子としてアイソザイムを指標とし、核外遺伝子として細胞質遺伝をするミトコンドリアDNA(mtDNA)を指標として解析することを目的とした。その結果、(1)淡水魚のmtDNAの簡易単離法として、アルカリ処理が有効であることを示し、さらに、非イオン性界面活性剤を膜溶解に用いた方法を応用することによって、非凍結試料でも、凍結試料でも簡便に使える「mtDNAの化学的簡易単離法」を確立した。この方法を用いて、(2)コイのmtDNAの制限酵素切断型に組織による差があるかどうかを卵巣と肝膵臓で比較したが、両者に差はなかった。そこで、肝膵臓と卵巣を用いてコイの制限酵素切断型変異の有無を10制限酵素について調べたところ、EcoRI、PstI、PvuII、XbaIに異なる切断型が認められ、4つの系の存在が示された。次に、形態とアイソザイム、およびmtDNAによるフナ属の種の判別とそれらの遺伝的差異を調べた。その結果、(3)東北地方のフナにはキンブナとギンブナにほかに導入されたゲンゴロウブナが生息していたが、核内遺伝子では完全に隔離されている、遺伝子の交流のないフナが一つの池において繁殖していることが見つけられた。(4)これらを他のフナと核内遺伝子(アイソザイム遺伝子)で16遺伝子座について比較した結果、それらはキンブナとギンブナであると推定できた。さらに、(5)それらのmtDNAの制限酵素切断型分析を行ったところ、両者は共通の系を保有し、核内遺伝子とは違うことが見つかった。
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