水圏生態系における定常性保全機構は生物学的過程によって主な支配を受けていると見なして差し支えない。そして、人類の利益が関与する過程を除けば、水圏生態系における定常性保全機構を構成する諸過程は微生物によって概ね制御されている。本研究は、水圏生態系が貧栄養化の影響を受けた場合に、その影響により環境諸要因の定常振動振幅が同一湖沼標式内において可逆的に変動する様式を、茨城県つくば市内洞峰公園の洞峰沼において水質浄化システム「バイオフィルタ-システム」を稼動させた際の事例において追究した結果である。 洞峰沼の水中に溶存する湖沼型決定要因である栄養塩濃度は、水質浄化システムの稼動により急激な増減を示したが、その定常振動振幅は中栄養型範囲内でのみ可逆的に変動した。そして、植物プランクトン優占種の出現様式は、水質浄化システムの稼動の有無に関係無い季節変動をしていたが、その生物量は水質浄化システムの稼動によって概ね半量に抑えられた。特に、Microcystisのような藍藻類の生物量は十分の一にまで低下して、夏季ブル-ムを形成するには至っていない。そして、水質浄化システムの稼動の有無に関係なく、植物プランクトンの固体群成長速度は同様な様式で季節変動をしていた。また、それらの固体群成長には、沼水中のアンモニア塩が制限要因であることが統計的に明らかになった。 以上の結果から、水圏生態系が中栄養型湖沼標式の範囲において富栄養可や貧栄養化の急速な影響を受けても、その生態系を構成している微生物群集が優占種内での微細な交替などの環境適応を迅速に行なって系の恒常性を保とうとすることが明らかになった。その結果として、沼生態系構造は破壊されることなく、環境諸要因は中栄養型範囲内で可逆的な増減振動を繰り返すことが示された。
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