1.東京湾、岩手県大船渡湾などで採集した従属栄養性渦鞭毛藻、特にDinophysis属の種の摂餌生態、生活史や増殖生理についてビデオカメラ付き倒立蛍光顕微鏡を用いて観察を行った。2.天然に発生するD.fortiiやD.acuminataには褐色ないし黄褐色の色素がみられるが、これらが粒状または棒状の色素体様の顆粒内にだけ認められる個体と、顆粒の他に原形質に膜状に広がっている個体とがあった。この色素は436nmの青色光励起下で黄色ないし黄燈色のフィコビリンの蛍光を発した。原形質内に色素が多く認められる個体を培養すると、約2週間以内に色素がほとんど消失してしまい、ごくわずかに顆粒が残る状態になってさらに数週間生存できることが分かった。3.中性赤で染色した顆粒をD.acuminataの培養液に入れると食胞中に顆粒が取り込まれることがわかった。これは、殻板を通して微細藻類を吸収する方法と異なる摂餌法をD.acuminataが行うことを示唆するものと考えられた。4.D.fortiiの培養中に大小2個体が縦溝を通して相互の原形質の連絡を作り、大形個体が小形個体を吸収する有性生殖と思われる現象が観察された。しかし、この現象は後記の捕食行動とも様式が酷似するので、現在核の移動について観察を続けている。5.色素をもたないDinophysis属の一種であるD.rotundataの摂餌生態を調べたところ、有鐘繊毛虫を選択的に捕食することがわかった。摂餌法は、ペダンクルを繊毛虫の原形質に差込み、まず消化液と思われる液を注入して繊毛虫の運動を止め、ついで同じペダンクルを通して原形質を吸い上げる方法であった。吸い上げた原形質はD.rotundataの体内に球状の大きな液胞として貯蔵され、徐々に消化されることがわかった。
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