コイを材料とした研究からは次の結果を得た。コイの尿性状には日周期的変化が認められない。水温の年変化に伴って尿量及び尿中の無機イオンや窒素化合物の絶対排泄量が変動し、特に尿浸透圧と尿中K^+は5、6月に顕著に低下する。水温を上昇させると、尿量とアンモニア濃度は増加し、尿浸透圧や尿中Na^+が低下するが、これらの変動の程度は、魚の季節順化や温度履歴によって著しく異なる。pH3.0かあるいはpH11.0の水中では尿量が激減し、尿の浸透圧、K^+、Mg^<2+>、無機リン酸および乳酸濃度は上昇するが、pH4.5かあるいはpH9.5の水中では尿量の一時的な増加、Mg^<2+>及び無機リン酸濃度の上昇が認められる。尿浸透圧、Na^+及びK^+濃度はpH4.5の水中では低下し、pH9.5の水中では上昇する傾向を示す。アンモニア態窒素が水中に2.5〜10ppm含まれる水中では、尿量が一時的に増加した後に減少する。尿の浸透圧、Na^+、K^+も同様にする。アンモニア態窒素が20ppm以上水中に含まれると、尿量は一時的に増加した後に急速に減少し、Ca^<2+>以外の尿中無機イオンおよび乳酸濃度は急激に上昇する。せこけ病を人為的に惹起させたコイでは、外部形態や血液性状等に殆ど変化が認められない時期でも尿中の有機物濃度は高い値を示し、体側筋組織が壊死・崩壊を始める時期になると尿量が増加し、尿のNa^+以外の無機イオン、pH、浸透圧も上昇する。トラフグを用いた研究からは、安静時の尿性状の値を得、さらに飼料中に含まれる蛋白質の量や質の相違によって、尿性状に差異が生ずることを明らかにした。マダイを用いた研究からは、安静時の尿性状の値の他に、低浸透圧の海水中では尿量が増加し、尿中のNa^+は変動せず、Ca^<2+>およびアンモニア濃度は増加し、Mg^<2+>、無機リン酸及び乳酸濃度は減少することを確かめた。以上の諸結果から、尿性状から魚類の生理状態を知る、いわゆる尿検査が有用魚種においても可能であることを確認した。
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