筋肉の運動あるいは死後変化は筋肉中の微量のCa^<2+>の濃度変化によって支配されているが、このCa^<2+>の挙動は主として筋小胞体と呼ばれる微小器官で制御されている。しかしながら、ウサギなど高等脊椎動物の場合とは異なり、魚類筋小胞体についてはその性状がほとんど明らかにされていない。本研究は筋小胞体を魚類から単離してその性状を畜肉のものと比較することにより、魚類筋肉の死後変化機構を明らかにし、ここで得た情報を魚肉の鮮度保持に有効に利用することを目的とした。 1.魚類筋肉の死後変化を調べる目的で即殺したコイを0℃および4℃に貯蔵したところ、0℃で死後硬直の進行が著しく速く、対応してATPの分解速度もこの温度で大きいことが明らかとなった。 2.コイ普通筋から筋小胞体を調製し、電子顕微鏡観察を行ったところ、筋原線維やミトコンドリアの若干の混入はみられたものの、高純度であることが明らかとなった。 3.ショ糖密度勾配を用いる超遠心分離で、筋原線維やミトコンドリアの混入が認められない、高密度筋小胞体、低密度筋小胞体などの各画分を調製することができた。 4.筋小胞体をSDSゲル電気泳動分析したところ、分子量95000(95K)のCa^<2+>ポンプ・タンパク質を主成分とすること、70K、35Kおよび10K成分にCa^<2+>結合能があることなどが明らかとなった。とくにカルセクエストリン様の70K成分は、ウサギの60Kよりも分子量がかなり大きく、特徴的であった。 5.シュウ酸存在下のコイ筋小胞体のCa^<2+>取り込み能は、0℃、10℃および20℃でそれぞれ、10、100および125nmol^<45>Ca/mg・minと0℃で極端に低く、死後硬直の進行とは逆の蛍光を示した。これは0℃で筋小胞体からCa^<2+>が遊離し、筋原線維ng^<2+>-ATPase活性を賦活する機構を示唆する。
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