研究概要 |
魚類筋肉の収縮はCa^<2+>によって制御されるが,骨格筋の細胞内Ca^<2+>濃度の調節には筋小胞体が重要な役割を果たすことが哺乳類で明らかにされている。魚類の骨格筋でも同様な器官が存在することが組織学的に確認されているが,Ca^<2+>取り込み能の温度依存性など,その化学的性状はほとんど明らかにされていない。このような背景の下,本研究は筋小胞体を魚類から単離してその性状を調べるとともに,筋収縮と相似た機構をもつ死後硬直現象との関連性を調べ,魚肉の鮮度保持上の資とすることを目的とした。 1.ヒラメを即殺し,0℃および10℃に貯蔵して死後硬直の進行を比較したところ,0℃貯蔵のヒラメは10℃貯蔵のものに比べて,硬直の進行が明らかに速かった。 2.上記試料につき,その普通筋を採取してピロアンチモン酸およびオスミウム酸共存下で固定し,電顕観察で細胞内Ca^<2+>の挙動を調べた。その結果,0℃では筋小胞体内Ca^<2+>濃度は10℃に比べてより速く減少し,筋細胞内Ca^<2+>濃度がより速やかに高くなることが示唆された。 3.ヒラメ普通筋から筋小胞体を調製して,そのCa^<2+>取り込み能を種々の温度で測定したところ,0℃で著しく低下することが示され,上記の結果とよく対応した。 4.筋肉内ATP消費,ひいては死後硬直と密接に関連する筋原線維のMg^<2+>-ATPase活性を,筋肉の弛緩時に相当するCa^<2+>非存在下で測定したところ,温度の低下に伴って活性は徐々に低下した。上記のように0℃では筋細胞内のCa^<2+>が上昇することから,この温度ではCa^<2+>存在下のMg^<2+>-ATPase活性を測定したところ,10℃,Ca^<2+>非存在下の値よりはるかに高く,死後硬直の温度依存性とよく相関した。
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