数種魚類筋肉中に多量に存在するLーヒスチジン(His)あるいはHis関連ジペプチドのカルノシン(Car)、アンセリン(Ans)およびバレニン(Bal)の筋肉緩衝物質としての役割について検討した。 1.市販の標品を用いて無機リン酸およびHis関連化合物12種のpH6ー8における緩衝能を測定し、2ー40℃の範囲でこれらの緩衝能の温度依存性を検討した。無機リン酸、Car、Ansの緩衝能は極めて高く、その温度依存性は僅かであったが、HisおよびBalの緩衝能は低く、温度依存性も大であった。一方、Ala・HisやSer・Hisの緩衝能は、Ansと同じであり、必ずしもHis関連化合物が緩衝物質として最適ではないと結論された。 2.筋肉緩衝能はHisとAns含量の高いカツオ白筋で最も高く、Balの多いコイワシクジラ骨格筋がこれに次いで高かった。これらの緩衝能は20℃以上で大きく低下し温度依存性が大であった。その他の魚類筋肉では緩衝能も低く、温度依存性は小さかった。筋肉緩衝能にはこれまで温度依存性はないとされていたが、筋肉によってはあることがわかった。 3.筋肉緩衝能への筋原線維タンパク質の寄与は10%前後であり、筋形質タンパク質の寄与は10ー24%であった。筋肉緩衝能の48ー96%はエキス画分により、筋肉により差があった。エキス画分の緩衝能の70%以上はHis関連化合物とリン酸によることが判明した、リン酸の緩衝能は種によらず一定であったが、His関連化合物の寄与はカツオ白筋およびクジラではエキス画分の緩衝能の60%前後と高かった。 4.微量のHis関連化合物の分布を調べたところ、13種の淡水魚筋肉にはいずれのジペプチドも微量ながら検出された。一方、エビおよび貝類8種でも同様であった。したがって、今後は緩衝能物質としての機能のみならず、これら微量のジペプチドの生理的機能の解明が必要と考えられる。
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