従来の積雪の熱収支を扱った研究では、短波放射と長波放射との正味吸収量が1日の全融雪量のかなりの部分を占め、また大気からの熱伝達によるいわゆる気温融雪量は風速に比例して増大することが明らかにされている。しかしながら現今の融雪流出解析では、一般に気温のみを指標とした融雪量算定の経験式が広く用いられており、積雪物理における知見と流出解析法との間に大きな隔たりがあるように思われる。 そこで本研究では、まず気温のみを用いた積雪・融雪モデルを取り上げ、その適用性と問題点を検討した。一方融雪に関する現地試験を続行し、積雪の熱収支の面から融雪と気象要素との関係を検討した。 1.北海道、東北、北陸の8地点における積雪水量あるいは積雪密度の測定値を用いて、現在わが国で採用あるいは提案されている気温のみを用いた四つの積雪・融雪モデルについて、その適合性を比較・検討した。その結果、融雪量算定式中の係数が地域によって、また年、時期によって変化すること、さらに積雪の保水性、降水の判別法、地点降水量の割増し等の検討が重要であることが明らかになった。 2.3ヵ年にわたる融雪量と気象要素の現地観測により、積雪表層と地面とにおける融雪の実態を明かにするとともに、積雪の熱収支、融雪に及ぼす気象要素の重要性を検討した。 積雪の熱収支では、融雪熱量に占める放射収支量の割合は大きく、その値は75〜85%であり、潜熱は蒸発による場合が殆どで、融雪には負の効果をもつことが多かった。また熱収支を考慮しながら、気象要素に対する融雪量の線形重回帰式を導き、融雪に及ぼす気象要素の相対的重要性を明かした。 以上の知見を踏まえて、今後さらに熱収支融雪モデルの検討を進める予定である。
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