ニワトリは尿酸合成動物で、尿酸の形で窒素を排泄し、尿素サイクルは不要にもかかわらず、その一酵素、Ornithine transcarbamylase(OTC)が腎臓に検出されるニワトリが存在する。この系統のニワトリのOTC活性は酵素誘導現象や調節遺伝子の変異、あるいは構造遺伝子の変異など多彩な遺伝的な変異を含んでいる。本研究はニワトリのOTCの遺伝子制御機構を解明する研究の一環として行ったものである。ラットの肝臓のOTCのcDNAを入手し、これをプローブした。OTC活性を有するWL-B系ニワトリと活性の殆どないBPR種ニワトリの腎臓からmRNAを抽出し、プローブと反応させた。ラットの肝臓ではただ一種のOTCのmRNAが検出されるのに対し、WL-B系ニワトリの腎臓では明確に2種のmRNAが存在した。その成因については今後の研究に持たねばならないが、ラットのOTCの遺伝子とは明らかに異なっていることが示された。今までに、ヒトはじめ多くの動物のOTCの遺伝子について様々な研究が行われているが、この様な事例は知られていない。他方、OTC活性が殆ど認められないBPR種ではWL-B系のものより大きな、ただ一種のmRNAが検出された。このことから、ニワトリのOTC遺伝子では品種間でもかなり異なっており、OTCの遺伝子制御機構は構造遺伝子の変異も含めて極めて多様であることが推定された。このmRNAを用いてcDNAの合成も行った。次いで、ニワトリとラットから核DNAを抽出し、このDNAを各種制限酵素で切断した。これをサザン・ブロッティング法により検出した。その結果、ニワトリのゲノムにもラットのOTCのcDNAと反応する塩基配列が存在することが明らかになった。また、その制限酵素の複数の断片のサイズはラットのそれとはかなり異なっており、染色体の遺伝子の構造もラットとはかなり異なっているものと推定された。この研究によって、核DNAにも腎臓のmRNAにもラットOTC遺伝子と相同な塩基配列のある遺伝子が見いだされ、これらを用いてクローニングが可能なことが明らかにされた。また、ニワトリの遺伝子の特殊性も明らかにされた。
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