申請者らは、牛体外受精卵を体外培養で胚盤胞まで発育させることができる完全体外培養系を開発した。この培養系の特徴は、牛体外受精卵を牛卵丘細胞と共培養する点にあった。しかしこの培養系でも胚盤胞まで発育する卵率は10〜35%と低かった。そこで本研究では完全体外培養系の改善と共培養された卵丘細胞の役割を解明するための実験を行ない下記の結果を得た。 1.受精卵と卵丘細胞の共培養区と受精卵の単独培養区をもうけて発生率を比較した結果、共培養の有効性が実証された。また共培養された卵丘細胞数が多い程、受精卵の発育が促進され、卵丘細胞由来の化学物質が受精卵の発育に有効であることが示唆された。 2.受精卵との共培養に使う細胞の種類が発育率に影響するか否かを調べるため、3種の生殖器由来の細胞と受精卵の共培養を行なったが、明確な差はみられなかった 3.受精卵の染色体分析を行なったところ、体外受精-体外培養由来胚は生体から回収胚に比べて、染色体数異常の割球をもつ割合が高かった。 4.受精卵の移植試験では、1989年末までに15頭(うち早流産4頭)の子牛を得、すべての子牛が正常であった。受胎率は新鮮胚で50〜60%、凍結-融解胚で10〜50%(凍結法によって受胎率に大きな差がある)であった。 以上の結果より、牛体外受精卵の発育に及ぼす共存細胞の役割の一因は、細胞が分泌する化学物質にあるように推察された。また完全体外培養由来牛胚の移植により正常な子牛が得られることが実証された。受胎率は生体からの回収胚に比べ低いが、完全体外培養系や凍結-融解法の改善により向上すると思われる。
|