生理活性物質の刺激に対して内皮細胞がいかなる役割を担って血管の収縮弛緩運動を制御しているかを、薬理学的・電気生理学的手法により検討した。まず、実験動物の大動脈より管状及びラセン状標本を作製した。結果(1)内皮細胞が無傷の血管標本を予めノルアドレナリンで持続的に収縮させたもとに、アセチルコリン(ACh)を適用すると、濃度に依存した筋弛緩を引起した。血管の内側表層にある内皮細胞を口紙片で軽く擦りとることにより内皮細胞がない血管標本にすると AChを適用しても筋の弛緩反応は引起こされない。この内皮細胞を介した間接的な筋弛緩効果は、サイクリックGMPの産生を阻害することが知られているヘモグロビンやメチレンブルー当によって阻止される。内皮細胞から放出された弛緩物質が主に血管平滑筋を弛緩させていることはDoner標本は内皮が無傷で生物反応標本は人工的に内皮を取除いた下での実験系で確認した。 (2)電気生理学的研究:3MKClで満たされた外径0.5μ以下の先端からなるガラス微少電極を平滑筋細胞内に挿入して膜電位を記録すると、内皮細胞が無傷の標本では静止膜電位が-62mVであるのに、内皮が損傷を受けた標本では役5mV膜電位が浅くなった。また内皮細胞依存性の弛緩因子の作用を抑制したヘモグロビンの前処置においても膜電位が約7mV脱分極することがわかった。AChの適用により内皮性の膜の過分極が生じるが、環境液のカリウム濃度を低下させるとAChによる過分極は増大し、カリウム濃度を高めると過分極はわずかに生じること、また数分間AChの適用中にもかかわらず膜電位は薬物前のレベルに徐々にもどるが、機械的反応は持続的に抑制され続けるので、二者以上の弛緩因子が刺激により放出されていると考える。目下、パッチクランプ法により内皮細胞膜電流の解析を進めているが、内皮特有と考えられる興味あるイオンチャネルを発見し、その確認を行っている。
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