網膜色素上皮細胞は視細胞の支持機能を果たすことはよく知られている。その細胞に備わっているさまざまな機能、例えば貪食能、イオン輸送能、吸収・分泌能などは膜蛋白が関与するところ大であろうと思われる。これらの機能の色素上皮細胞での局在はよく知られているものもあるが、大部分は、この細胞の形態より推測されているにすぎない。一般的に云えば、機能局在は、或る既知のマ-カ-、例えばATPase等を用いて組織細胞化学的に検討するものであるが、われわれは、発想をかえ、色素細胞に存在する蛋白に対する単クロ-ン抗体を作製し、免疫組織化学的にその局在を調べ、ついで、網膜の組織分化のいづれの時期にこの抗体の抗原蛋白が出現するかを検討し、膜内に存在する機能蛋白と形態分化との相関を研究してきた。本年は、昨年よりも更に単タロ-ン抗体の数を増した。またイムノブロッテング法の再検討を行った。新しく得た抗体はS3D10、S5D8、S5F4などである。なかでも、S5D8は細胞質を顆粒状に染色し、網膜の他の細胞は全く染めない。しかも多くの哺乳類網膜の色素上皮細胞を染めることは特筆に値する。色素上皮細胞の支持機能の出現する孵卵15日(ニワトリの場合)前後にこの抗体に対する反応性も出現するところから、この細胞の機能に深くかかわるものと思われる。細胞内局在は免疫電顕により検討中であるが、この細胞に特徴的な滑面小胞体であろうと予測している。イムノブロッテング法による抗原蛋白の分子量は63KDであった。更に他の抗体についても発生学的検討をすすめている。
|