ニワトリ網膜を構成する色素上皮細胞を単離し、完全フロインド・アジュバントと混合し、マウス腹腔内に注射し、3週後に抗体を産生す脾細胞を得た。限界希釈法により、単クロ-ン抗体とし、そのうちのS5D8およびS5H8について詳細な検討を行った。1.抗原蛋白の同定。ニワトリ胚および成鶏の網膜より色素上皮細胞を分離し、可溶性成分と核を除いた分画をサンプルバッファ-で可溶化した。12%ポリアクリルアミドでSDSーPAGEを行い、Hybond C extraーmembraneヘトランスブロットした。S5H8とS5D8を一次抗体とし、二次抗体にアルカリフォスファタ-ゼ標識した抗マウスIgGを用いウエスタンブロットを行ったところ、いづれも単一のバンド(分子量約63kD)認めた。2.免疫組織化学法による抗原の局在。二次抗体にFITC標識した抗マウスIgGを用いて蛍光顕微鏡により検索したところ、ウシ、ラット、マウス、ニワトリの色素上皮細胞と強く反応した。いづれも細胞質に果粒状の蛍光を認めた。反応は鋸状縁までで、網膜盲部に対応する色素上皮細胞には蛍光を認めず、更に虹彩部色素細胞にも認めなかった。神経網膜はS5H8で錐体細胞のパラボロイドに蛍光を認めた。これはパラボロイド中の滑面小胞体が反応していると考えているが、現在電顕レベルで検討中である。二次抗体にHRP標識した抗マウスIgGを用いた免疫電顕法によると、滑面小胞体膜へHRPの反応産物が沈着していた。粗面小胞体も反応していた。更に滑面小胞体の変形である層板小体も反応していた。S5D8、S5H8は小胞体の蛋白を抗原として認識していたので、小胞体の多い組織(肝臓、副腎皮質、精巣、骨格筋等)との反応性を検討したところ、いづれとも全く反応しなかった。これらのことから、今回得られた抗体は網膜の色素上皮細胞中の小胞体のとの特異性が高いもので、今後色素上皮の形態形成の検討に有用であると思われる。
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