網膜色素上皮細胞(RPE)は視細胞の支持機能を受持っており、種々の機能とその形態が報告されている。本研究は従来の研究とは観点をかえ、細胞の有する特異的蛋白質に対する抗体を作製し、或る蛋白質の出現と細胞の形態形成とのかかわり合いを探ろうとするものである。3年間の成果は以下の如く3部に分たれる。1:ニワトリ網膜の発生学的研究。色素上皮細胞の形態形成は視細胞の内節と外節の形態分化と平行していることが判明した。特に目立った変化としては頂部突起の長さは外節の形成に伴って伸びている。2:単クロ-ン抗体の産生。RPEを単離し、アジュバントと混合し、マウス腹腔内へ投与し、抗体産生細胞のハイブリド-マを作製した。限界希釈法で単クロ-ン抗体を分離したが、特にRPEと特異的に反応するもの、KM1、S5D8、S5H8について、その局在を検討した。2ー1.KM1抗体はSDSーPAGEとイムノブロットによると42kDの蛋白を認識する。RPEの細胞膜とともにミュ-ラ-細胞の膜とも反応した。発生学的には孵卵8日では反応せず、それ以降次第に強い反応を呈した。RPEミュ-ラ-細胞という網膜の2種類の支持細胞と認識するものとして今後検討をつづけたい。2ー2.S5D8とS5H8抗体はKM1と同様RPE発生後期より出現し63kDの抗原蛋白を認識した。RPEに特異性が高く、ウシ、ラット、ウサギ、マウス、ニワトリのRPEと反応するが、他の組織とは全く反応しない。免疫電顕によるとRPEの小胞体と反応していた。小胞体は細胞内小器官としては極く一般的であるが、他の細胞種の小胞体とは異なる抗原蛋白がRPEに存在することを示唆するこれらの抗体により、RPEの機能の解明のすすむことが期待される。
|