本研究を始めるあたって、雌雄ラットの脳下垂体血管構築全般について、新生児から老年に至るまで、鋳型走査電子顕微鏡法で詳細に調べ、次の結果を得た。1.ラットでは下垂体門脈系はよく発達しており、正中隆起(漏斗)部とその頸部を囲む血管叢(第一次血管床)と下垂体前葉血管叢(第二次血管床)を連絡する長下垂体門脈と、下垂体後葉血管叢と第二次血管床を連絡する短下垂体門脈が明瞭に区別できる。後葉血管床は第一次血管床に移行し、両者間に区別はできない。従って、後葉血管床も第一次血管床に加えられるべきである。 2.第一次血管床は浅層と深層に区別でき、浅層は一層の密な毛細血管からなり、深層は隆起部内に突入するループ状血管からなる。深層の背側に上衣下血管群が存在する。この血管群は下行輸出小静脈(上衣下門脈)を介して長門脈に注ぐほかに、上行輸出小静脈を介して視床下部静脈に直接注ぐ。従って、下垂体門脈系から起って、視床下部に向う門脈は存在しない。 3.中間葉血管床は新生児を含めて若いラットには存在せず、思春期以後に現われ、加令と共に発達する。この血管床は独立した動脈枝を受け、前葉に注ぐ門脈(腺葉内門脈)を形成する。また、発情期に洞様毛細血管となる。 4.第一次血管床のループ状血管と上衣下血管群は加令と共に発達する。一方、短門脈は新生児に於いて最も著明であり、加令と共に退化傾向をしめし、老令ラットでは非常に細くなる。 5.上衣下血管群には性差が認められる。すなわち、この血管群は雄性ラットで著明で、雌性ラットではその発育はよくない。 6.以上のラットに於ける所見を礎として、現在モルモット、ウサギについて調査を進めている。
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