視細胞には光受容細胞として特殊な形態の分化がみられ、組織内では明らかな極性をもっている。視細胞が発生の過程でこの極性を獲得するメカニズムを知る目的で、発生中のラットの視細胞を免疫組織化学的に観察するとともに、細胞培養系のさまざまな条件下で視細胞がどのような形態を示すかを調べた。その結果、1.Wistar系とLong-Evans系では培養された視細胞の形態に違いがある。オプシン抗体をもちいた免疫電顕の結果、Long-Evansでは層板構造をもつ未熟な外節が形成されオプシンはこれに一致して局在するが、Wistarではこのような構造はなく多数の長い神経様突起をもち、またオプシンの分布にも局在がみられず細胞体や突起全体に認められた。2.以上のような培養系での差異が果して発生中の網膜にもあるのかどうかを調べるために、2つの系統のラット網膜の生後発生過程を視細胞のマーカーであるオプシンの免疫電顕と5'ーヌクレオチダーゼ活性の酵素電顕によって調べた。その結果、発生中の網膜にみられる異所性の視細胞(内顆粒層に迷入した視細胞)に明らかな違いを認めた。すなわち、Long-Evansでは異所性視細胞は不完全ながら外節を有し、オプシンがこれに一致して局在するのに対して、Wistarでは外節様構造はなく、またオプシンも細胞膜全体にみられた。3.視細胞は支持細胞であるMuller細胞に包まれているが、Muller細胞のマーカーであるSー100タンパクの抗体で生後発生を調べたところ、両系統のラットで染色性や細胞の形態に全く差異はなかった。4.オプシン抗体によるImmunoblottingで調べた結果でも両系統で差はなかった。5.ラット網膜と平行してニワトリ網膜の正常発生を、視物質イオドプシンの免疫電顕及び視細胞とシナプスを形成する水平細胞のマーカーであるGABAの抗体で調べ、多くの新知見を得た。
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