クロアワビ(軟体動物)精子の先体反応によって放出される2種類の蛋白(15.5K及び20K蛋白)は卵黄膜溶解物質(ライシン)である。単離した両ライシン及びその抗体を用いて、両ライシンによる卵黄膜溶解の機構を超薄切片法、免疫電顕法により検索した。卵黄膜最外層の溶解は両蛋白を必要とするが両者の共存は必要とせず、先ず20Kが作用した後で15.5Kが最外層に働き、続いて主部のフエルト様構造をゆるめ著しく膨潤させることがわかった。一方、15.5Kの濃度低下に伴い卵黄膜溶解の程度も減少すること、ある濃度以下では処理時間を延長してもそれ以上溶解が進まないことから、15.5Kライシンは酵素ではないことがわかった。さて溶解し膨潤した卵黄膜上に両ライシンを検出すると、15.5Kは主部の網工に密に分布していて、作用後も作用部位に留っていることが明示された。このライシンの作用は明らかに非酵素的であり、ほ乳類や棘皮動物などの分解酵素として働くライシンとは異る、非酵素的作用機構を示す極めて特殊な卵黄膜ライシンであることが実証された。なお、20Kライシンは検出されず、今後の課題として残っている。 バテイラの卵黄膜ライシンは1種類の蛋白で化学量論的に作用するライシンとして最初に報告されたものである。単離したライシンとその抗体及び卵巣卵子を用いて卵黄膜溶解機構を免疫電顕法で検索した。バテイラ卵黄膜は3つの部分から成るが、ライシン処理で高く上った卵黄膜の基本構造は変っていなかった。また、ライシンの結合部位は、ライシンによって変化する(高く上がる)層ではなく、その層の外表面に等間隔に並ぶもみの木様の構造であった。ライシンが作用後もその結合部位に残留するという事実はこのライシンの非酵素的作用の証拠と言えよう。一方、結合部位と作用部位(直接変化する部位)が異るという事実は、このライシンの2段構えの作用を示唆していて興味深い。
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