頭部神経堤細胞の標的器官形成への必要条件をみる目的で組織化学または免疫組織化学の方法を用いて、マウス胚の頭部神経堤細胞を観察して来た。神経堤細胞の分化異常による奇形マウス胎児において、正常マウス胎児における神経堤細胞の特性の変化をみた。 ICR系マウスを用いて、妊娠8日にレチノイン酸を母獣に投与(60mg/kg体重)し、9日胎児で外脳を示すものと示さないものを得た。正常9日マウス胎児は、レチノイン酸を与えなかった母獣より得た。胎児は免疫染色を施すため、Zamboni液で固定し、凍結切片とした。抗choline acetyltransferase、抗tyrosine hydroxylase、抗vasoactive intestinal polypeptide、抗substance P、抗calcitonin geneーrelated peptide、抗nerve growth factor等をABC法によるperoxidase反応で反応させた。頭部神経堤細胞はこれ等の抗体に対して、抗choline acetyltransferaseのみに陽性反応を示し、他の抗体に対して反応は示さなかった。 choline acetyltransferase陽性反応を示した神経堤細胞は、正常9日マウス胚の上顎および下顎突起において認められた。外脳を示したマウス胚では陽性反応細胞は殆どなく、またレチノイン酸曝露マウスでは、正常マウス胚の頭部における陽性細胞数は減少していた。 以上のことから頭部神経堤細胞はacetylcholineを合成する能力があり、またレチノイン酸によって合成能力が低下することが判った。この神経伝達物質が、上顎や下顎の形成に如何なる役割を担っているのか現時点までの結果からは判明出来ない。今後の研究課題としてさらに追求する必要がある。
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