ニワトリ胚の末梢神経を全胚標本の状態で免疫組織学的に染色し、迷走神経と三叉神経の発生経過を三次限的に詳細に追跡した。三叉神経については第1枝の眼神経が他の2枝(上顎神経、下顎神経)よりも、きわめて早い時期に発達すること、三叉神経節が三叉の基部に神経突起を豊富に持つ網状構造として認められること、およびこれとは別のところにectopicな神経節が発生することを明らかにした(Anat.Embryol.)。迷走神経の発達ではおもに心臓と肺(臓)に神経枝が入り込んで様子を追跡した。この研究は発生学において大変難しい反面、人体の機能においては極めて重要である。研究者らはこの研究によって、沢山の知見を得て(Anat.Embryol.)、向後の人体発生をも含めた研究の発展の足場を作った。解剖学用語に立派に掲載されながらその意味が不明であった迷走・舌咽・顔面神経の交通について一つの答えを出した(Acta Anat)。 第3と第6の大動脈弓は発生の途上で、時計方向に回転する。この時にそれまでは左右対象性であった迷走神経の上心臓枝は左が前に、右が後ろに位置するようになる。心臓の動脈門に入る枝の左右不対象性はヒトでも観察される。しかしながらこれまで光学的、また電顕的な研究によってある程度は報告されてきたが、明確な説明は為されていない。本研究によってそれが決定的に示されたと思っている。又、心臓には静脈門から入る迷走神経の枝がある。これは人体解剖学では深心臓神経叢と称されてきたが、本研究によってこれは肺臓が発達し、そこからの静脈ーー肺静脈が心臓に入り込む時にこれに伴って心臓に入り込むことが分かった。これが心臓のペ-スメ-カ-の一つである房室結節ならびにその近辺にある心臓神経節に達している。以上のように心臓には動脈門から入り込む迷走神経枝と静脈門から入り込む枝があって、後者が肺の発達ーーー第6動脈弓ーーー肺静脈の一連の発生ときわめて密接に関連している。
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