アセチルコリン神経系の形態学的研究は、本研究者らが開発したアセチルコリン合成酵素の免疫組織化学が普及することにより急速に進展をみた。しかし動的なコリン神経機能を形態学的に追求することは上記の手法では困難なため、伝達物質アセチルコリンそのものに対する抗体を作成し、その抗体を用いる免疫組織化学法の開発が必要と考えられた。本研究において、まず最初にこれまで作成が困難であるとされていたアセチルコリン抗体について、詳細な検索を行った。その結果、従来の報告にみられるようなコリン抗体は特異性に欠け、実用に適さないことが認められた。さらに特異性が高く、抗血清の作成も再現性よくするという目的のもとに検討を加えたところ、サクシニルコリンの側鎖にアミノ基を結合したものとアルブミンのカルボキシル基とをグルタルアルデヒド架橋法によって複合体としたもの、あるいはアセチルチオコリンのSH基を介する結合法によって複合体としたもの、などをハプテン抗原とした場合に、家兎免疫血清中に抗体価の高い抗体が作られることを見いだした。このうち、優秀な抗血清はアセチルコリンと強く反応するが、生体に豊富に存在するコリンやその誘導体とはほとんど免疫交叉性を示さないことが認められた。このことにより、初段階の目的は成功をおさめたといえる。次にこの抗血清を用いて免疫組織化学染色を試みたところ通常の組織固定切片では期待される程の染色結果が得られなかった。各種の組織固定法を現在もなお検討中であるが、組織内では非常に溶解度の高い状態で存在するアセチルコリンをいかにして細胞骨格タンパクなどと結合させるかにポイントがあると思われる。仏国在住の著名なコリン神経学者である辻博士とも討論を行い、タングステン酸塩がアセチルコリンと錯塩を作るという可能性が想定されたので、タングステン酸含有固定法について至適条件を検討中であり、一層の努力を続けたい。
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