膵β細胞は細胞外グルコースに反応して脱分極する。この脱分極の際、Kーconductanceが低下することは明らかにされているが、backgroundの内向き電流を何が運んでいるか未だ明らかでない。細胞外のNa^+とCa^<2+>の両者を取去っても脱分極が起こることから、他に内向き電流を運んでいるionがあるに違いない。この点を明らかにする為に以下の実験を行い、細胞内呼吸より生じるCO_2の水和の産物であるHCO^-_3との交換によって細胞内に蓄積されたCl^-の細胞外への流出がbackground inward currentの可成の部分を占めることを示す成果を得た。 方法:マウスから膵を取出し、ランゲルハンス島を含む組織をチェンバに固定し、ガラス微小電極(200ー300MΩ)を刺入してglucoseに対する典型的な反応を指標としてβ細胞を同定した。 結果:1)細胞外Na^+濃度を135mMから25mMに下げることにより誘発される脱分極の勾配はacetazolamide(炭酸脱水酵素阻害剤)を作用させた細胞では同阻害剤を作用させる前の約1/3であった。この所見はNa^+/H^+対向輸送抑制による脱分極に炭酸脱水酵素を介する反応が関与していることを示す。2)acetazolamideを作用させた細胞では、細胞外Na^+濃度を下げたとき、脱分極に先立って一過性の過分極が認められた。細胞外Ca^<2+>を取去ることにより、この過分極は消失した。この現象は細胞内Ca^<2+>濃度の上昇によると考えられる。3)Cl^-がbackground inward currentを運んでいるならば、細胞内Cl^-濃度の低下は過分極を果たすと予想されるが、SITS(陰イオン交換輸送阻害剤)を与えると脱分極が起こる。陰イオン交換輸送の抑制が細胞内Ca^<2+>濃度の低下をもたらすならば、Kーconductanceが低下し、これが脱分極を惹き起こすと考えられる。そこで予め細胞内Ca^<2+>濃度を下げておきSITSを与えたところ、予想通り過分極が認められた。
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