胎生期から老年期に至るマウスより後根神経節を摘出し、神経細胞を分離培養する。神経細胞にNaCl濃度を1/2にした低張液を作用させ、その時の神経細胞の形態の変化を位相差顕微鏡で観察し、同時にビデオシステムで録画し、画像を解析した。低張液作用後神経細胞はただちに膨みはじめ、直径が約1.15倍になったところで最大に達し、その後細胞容積が減少しはじめ元の大きさに戻って一定となる。このように神経細胞に細胞容積調節能のあることが判明した。この細胞容積調節は、膜の伸展に伴うイオンの透過性の変化により行われていると考えられる。又細胞容積が増加しはじめてから最大値に達するまでの時間が加齢に伴い長くなっており、その原因の一つとして神経細胞膜の伸展性が加齢に伴い低下していることが考えられる。Elastic Area Compressibility Modulus(EACM)法を用い神経細胞膜の弾性的な性質を測定したところ、3カ月齢の神経細胞では36.5dyn/cm、胎生期の細胞では2.8dyn/cmであった。EACM値の逆数が弾性率を示すことから、加齢に伴って神経細胞膜は硬くなってくるといえる。こうした膜弾性率の低下が、低張液に対する応答の加齢に伴う低下の一因と考えられる。すでに明らかにされている加齢に伴うフィブロネクチン受容蛋白の減少、膜の流動性の低下を合せて考えると、神経細胞膜は環境の変化に適応しながら、年とともに硬化していくと思われる。分離された神経細胞からの突起再生が、加齢にともない遅くなり、in vitroでの神経線維切断端からの再生も遅くなる。その一因として神経細胞膜の硬化をあげることが出来る。神経細胞膜の硬化の原因を究明するとともに、膜の可塑性を高める物質を見いだすことは、老人性痴呆問題解決の一助となるのではないかと期待される。
|