初年度(昭和63年度)は、L型Caチャネルを活性化する細胞内蛋白(CCAP)の精製法を、リポゾ-ムに再構成した心筋Caチャネルをアッセイ系に用いて検討した。その結果、CCAPはゲル濾過では分子量200ー300kDに相当する位置に移動すること、およびDEAE-吸着カラムでは100ー150mMのKClで溶出されることが明らかになった。また、部分精製したCCAPを心筋細胞のinside-outパッチに投与すると、run-downしたCaチャネルが回復することが確認された。 次年度(平成元年度)は、CCAP精製法を更に検討し、ゲル濾過、DEAE-吸着、硫安分画、熱処理等を組み合わせた方法を確立した。この方法で調製した蛋白をSDSーポリアクリルアミド電気泳動法でみると主バンドとして約100kDの蛋白が認められた。CCAPのこれらの性質は、Caチャネルの構成蛋白やチャネルに作用することが知られているAキナ-ゼ等とは異なるものである。次に、CCAPの組織分布をパッチクランプ法を用いて検討したところ、脳、骨格筋、肝臓には存在するが、腎臟には存在しない(又は非常に少ない)という結果が得られた。この組織分布は、やはりCaチャネルやAキナ-ゼとは異なるもので、上の生化学の結果と合致する。更に、CCAPによるCaチャネル活性化の機序をパッチクランプ法で検討した(Caチャネル開口剤Bay K 8644の存在下)ところ、CCAPはチャネルの数や単一チャネルコンダクタンスには作用せず、もっぱら開口確率を増大させることが判明した。 この研究により、心筋Caチャネルのrun-downはCCAPの失乏により起こることが判明した。CCAPによるCaチャネルの活性化は、イオンチャネル一般の新しい調節機構である可能性が高いので、今後ともCCAPの生化学的性質や生理作用について研究を進めていくことが極めて重要であると思われる。
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