ヒトの頭皮上から記録されるCNV(付随陰性電位変動)の発現機序の研究には、CNVの中枢神経系における発現部位を明らかにすることが必要である。本研究者は、実験動物としてサルを用い、ヒトのCNVに相当する電位の誘発を試みた。方法はニホンザルを訓練して、予告刺激の呈示から約1秒後に呈示される命令刺激に応じて、手によるレバー上げ運動を行わせた。予告刺激には聴覚刺激(2000Hzを10ミリ秒の間持続)あるいは視覚刺激(緑色を50ミリ秒の間持続)を用い、命令刺激には視覚刺激(黄色を500ミリ秒の間持続)を用い、サルが命令刺激の持続中に運動すると報酬を与えた。サルが運動する間、多くの大脳皮質領野に慢性的に埋め込まれた電極を用いて、フィールド電位を記録し、加算平均法を用いて分析した。皮質電極は皮質表層と2ー3mm深層に設置し、不関電極は耳の後の頭蓋骨に埋め込んだ。 以上から、次のような成果が得られた。 1.予告刺激に視覚刺激を用いた場合、前頭前野、運動前野および補足運動野において、予告刺激開始から200ー300ミリ秒後に始まって、命令刺激開始まで続く表面陰性ー深部陽性の緩電位が得られた。この電位よりやゝ遅れて始まり、徐々に増大する表面陰性ー深部陽性の緩電位が、運動野および体性感覚野の上肢領野において記録された。これらの緩電位は興奮性シナプス後電位であると考えられ、これは丁度、ヒトのCNVに相当する電位であるように推論される。 2.予告刺激に聴覚刺激を用いた場合にも、視覚刺激の場合と同様、前頭前野、運動前野および補足運動野においてCNV様電位が記録された。しかし視覚刺激の場合に比べ、電位の振幅は小さく、分布も限られていた。運動野および体性感覚野においては、このような電位は記録されなかった。
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