心筋内向き整流カリウム(K)チャンネルの外向き電流は、生理的濃度の細胞内マグネシウム(Mg)イオンにより選択的に抑制され、内向き整流特性が生じる。Mg濃度が2〜10μMの場合、外向きの単一チャンネル電流に単位電流の3分の1と3分の2の大きさのサブレベルが出現し、電流が流れないゼロレベルとチャンネルが完全に開いているレベルを含む4つのレベル間を行き来する。チャンネルが各レベルに滞在する時間が、二項分布に従うことから、このチャンネルは3つの等しい伝導ユニットで成り立っており、それぞれの伝導ユニットが互いに無関係にMgによりブロックされると考えられた。 本研究では、内向き電流がブロックされる場合、同様の現象がおきるかどうか調べた。モルモット単一心室筋細胞をコラゲナーゼで単離し、10-100μMのCs^+または20-100μMのRb^+を電極内液に加えて、内向き整流Kチャンネルの内向き単一電流を記録した。Mgによる外向き電流のブロックでは、全てのチャンネルでサブレベルが観察されたのに対し、内向き電流では、20%の例でサブレベルが観察されるにとどまった。これらの例ではMgブロックにおけると同じように、チャンネルが各レベルに滞在する時間は二項分布に従い、伝導ユニットが互いに無関係にブロックされることが示唆された。残りの80%の例では、ゼロレベルと完全に開いたレベルを行き来するだけであった。ゼロレベルと完全に開いたレベルの滞在時間を、同一条件(ブロッカー濃度と電位)で2つの群で比較すると完全開時間は両群で差がなく、ゼロレベル時間は、サブレベルを示さない群で2〜3倍延長していた。Cs^+やRb^+によるブロックの場合、大多数のチャンネルでは、1つの伝導ユニットがブロックされると、他の2つのユニットが瞬時に閉じると考えられる。各ユニットがどのような機構により協調するのかは、残された研究課題である。
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