脊椎動物網膜に入射した光は視細胞の視物質にとらえられ、数段階の化学反応を介して視細胞に過分極性の光応答を引き起こす。現在、視細胞は二次ニュ-ロンに対して暗時に伝達物質を放出し、明時(光応答時)にその放出を停止すると考えられている。視細胞の伝達物質としてグルタミン酸またはアスパラギン酸が挙げられているが、その何れが真の伝達物質であるのかまだ明らかでない。本研究は、網膜から視細胞を単離した後灌流し、灌流液中に放出された物質を高速液体クロマトグラフィ-によって直接分析し、上記伝達物質放出機構の真否を検討し、さらに、両アミノ酸の何れが真の伝達物質であるのかを明らかにすることを目的とした。 昭和63年度は先ず、1.見かけ上健全な神経終末を保持している視細胞の単離方法について検討するとともに、2.視細胞から放出されるアミノ酸を回収・分析するためのセルの作成、3.灌流液内のアミノ酸の分析方法の検討を行い、高速液体クロマトグラフィ-による灌流液中のアミノ酸の分析を可能にするための条件を探索した。平成元年度はこのような実験条件のもとで、1.アミノ酸放出に対する光の作用、2.光照射終了時にみられたアミノ酸放出、3.いわゆる“Chemical depolarization"によるアミノ酸放出の特徴について、4.脱分極由来のアミノ酸放出におけるカルシウムの要求性などについて検討した。 研究の結果、視細胞の脱分極にともなって、アミノ酸が放出される、つまり過分極すればアミノ酸の放出が停止することが示唆された。しかしこのようなアミノ酸放出は、アスパラギン酸やグルタミン酸に特異的な現象ではなく、測定したすべての酸性アミノ酸に共通して認められる現象であった。以上の結果から、本研究によって視細胞から放出される伝達物質を特定することはできなかったが、単に一種類のアミノ酸に注目してこれが視細胞から放出されることから、それが伝達物質として作用していると結論する事は危険であることが示された。
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