1.細胞内Caイオン濃度を検出するための試薬としてarsenazo III(AZ)やantipyrylazo III(AP)が用いられてきた。これらの試薬を骨格筋線維に注入するために、cut fiberを使っての実験は漸く開始されたばかりである。顕微鏡に附属した光学系の測光部分、すなわち、シャッター、スリット、分光器、干渉フィルター、光電ダイオドを装着するための装置の完成が予定より遅滞したためである。薄いゴム膜を使って筋線維を3区画に区分するための絶縁方法の改善を試みている段階にある。 2.従来は、AZを細胞内ガラス微小電極に充たし、この電極を筋線維に刺入して負電流を通じて電気泳動的にAZを注入する方法を適用してきた。昭和63年度には、主としてこの方法により、電気刺激に伴う細胞内Ca濃度の消長、Ca-transientを測定した。筋槽のリンガー液を50%CO_2で通気する時、細胞内pHは約6.3と推定される。電気刺激後のCa-transient信号は、その振幅が低下し、下降相が遅延している。特に、1/2秒〜1/10秒の頻度で反復して刺激する時、下降相の遅延は一層顕著になる。リンガー液中でのCa-transient信号の下降相の時定数は24msであり(20ー24℃)、1/5秒の反復刺激後30回目の信号のそれは38msに延長するにすぎないが、CO_2ーリンガー液においては、50〜100msに延長する。また、酸性の条件では収縮張力の減少と弛緩過程の遅延とが認められる。 3.これら、細胞内pH変化に伴うCaーtransientの変化はAZとCaとの反応速度の変化に由来するよりも筋小胞体からのCa放出ならびに結合の過程が遅延することに由来すると考えられる。本研究の実験結果は、すでに報告されている生化学的実験結果と一致しない点もあるが、収縮張力との対応をよく説明することができる。
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