昭和63年度の研究実績 1、モルモット又はラット脳スライス標本の海馬CA1錐体細胞は、無酸素あるいは無グルコース単独瀑露に対してきわめて抵抗性が高く、細胞膜は最初の数分間過分極した後、緩徐な脱分極に移行し、コントロールの静止膜電位より約20mV脱分極レベルに保持された。40分間の瀑露の後正常クレブス液に置換すると膜電位は迅速に瀑露前のレベルに回復した。初期の過分極位は細胞内ATPの減少によってATP依存性Kチャネルの活性化によって、緩徐な脱分極電位はNaポンプの一部不活性化の為細胞外K蓄積が生じることによって発生していることが明らかになった。 2、無酸素+無グルコース同時瀑露によっても初期の過分極電位とその後の緩徐脱分極電位が生じるが、単独瀑露と異なり、瀑露7〜8分に急峻な脱分極電位が発生して膜電位は0mVとなり、膜は非可逆的変化を示した。この急峻な脱分極電位の発生と細胞内自由Ca濃度の急激な上昇とはほぼ平行して生じた、外液Ca濃度を減少させるか、無機あるいは有機Ca拮抗薬を投与すると、脱分極電位発生勾配は緩徐になった。一方、外液Na、Cl濃度を減少させても脱分極電位に有意の変化をもたらさなかった。これらの結果は、急峻な脱分極電位発生が膜の非可逆的変化をもたらすこと、Ca influxとATP依存性CaポンプおよびNa/Ca交換機構の不活性化がこの電位発生の一義的要因として考えられることを示唆している。
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